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文理選択‐根の深い木 106‐

  日本では、高校生が大学受験学習を始める時、まず文理選択、そして学部・学科選択へと進んでいきます。「文系、理系」という分け方は、仕事上でも私的な日常会話でもされます。一方で、「グローバルな視点からは文系・理系という区分にはあまり意味がない」とか「リベラルアーツの時代に文系・理系の分類は不毛だ」という声もあります。それを反映してか、昨今、学部名だけでは、文理どちらなのかが、わからないネーミングもあります。入試でも教科横断型や文理融合型の問題が、目立ちます。

 文系教師だった私は、仲間との議論の最中に理系教師の観点に驚くことが頻繁にありました。私は、論理的に答えを出すべき時に、情緒や感性に支配されることが多く、無駄に時間を費やしていました。これは、私個人による文系頭の偏りです。ですから、「グローバルに活躍できる理系人材の育成」などと要望されると「餅は餅屋に」と、逃げていました。私には、文系・理系どちらかに自分を位置付けた方が、人生は前進しやすいという思い込みがあり、専門性を武器に強みを発揮して戦えば良いと思ってきました。とは言いつつ、芸大卒の理科教師や理数科出身の音楽教師の友人を心底、うらやましく思って見てきました(なんにせよないものねだりですが)。ですから、教師になった時、小学生の受験算数の質問にも冷や汗やあぶら汗をかきながら必死に対応しました。子どもたちが、どちらにもシフトできれば、鬼に金棒だと思いました。幅広く学部・学科を視野に入れて選択したいのであれば、数学を避けるのは得策ではありません。例えば、経済学部は文系の学部ですが、学ぶ上では数学を多用します。理論経済学は数理的に分析していく学問であり、国民所得や失業率などを対象に国全体での経済を考えたりします。経営学では、会計も学びますから、どう考えても数学が必要です。

 もちろん、幅広くという捉え方ばかりでなく、やりたいこと好きなことという選択や、早い時期での職業選択により高い専門性のある学部に進む人もいます。そういう分野には医学部、歯学部、薬学部のような職業直結型の学部もありますし、逆に好んで専門に学んだことが、職業に直接結びつかないことが多い文学部のような学部もあります。ところで、大学で学んだことが役に立つとか立たないとかの議論において、度々、矢面に立つ文系の極致、文学部は、どうなのでしょうか。学校で学んだことが役に立つとか立たないとかにこだわる高校生に「文学部で学んだことは何の役に立つのですか」と問われたら、何と答えてやれば良いのでしょう。私は、「日本人とは」「人間とは」を学ぶことに繋がるのではないかと考えています。産学連携と言われる今回の教育改革を含めても大学の社会的責務が、企業が求める人材の育成のみであるはずがありません。この質問を正面から受け止めて、しっかり考え、その学部を志望する生徒に丁寧に説明することが大切です。理系学問のような有用性ではなく、長期的に役に立つ「人を知るための学問」だということを飽きずに説いていこうと思います。コンピュータやAIが進化すれば、むしろ、純粋な文学部の意義が高まっていく可能性さえあるのではないかとも思います(限りなく少数派かもしれませんが)。「文学部は就職しづらい」「どれほど役に立つのかわからない」などというのではなく、追究した学問が、自らを救うものかもしれないのです。近視眼的な見地から受験科目を早くに絞り込むのではなく、しっかり数学に取り組んだ上で、学部を選択しても、道はちゃんとあるはずです。私は、自虐しつつも、これまでに何度も算数のテキストと格闘してきています。