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他国の教育改革‐根の深い木 107‐

  2015年までのPISA調査において常時、上位にランクインする国・地域の中から、私は香港、韓国、シンガポール、トロントの教育機関(日本人学校、インターナショナルスクール、帰国子女向けの進学塾、現地の小中学校など)を、3年ほどかけて視察しました。各国は、文化的、歴史的な条件の中で教育改革を行っていることが、よく理解できました。

シンガポールは、1965年にマレーシアから分離独立しましたが、国が小さく、人口も少なく、天然資源に恵まれず、飲料水さえも他国に依存しなければなりませんでした。発展途上の経済や隣国との緊張関係、民族や宗教の集団的な対立など、いくつもの課題に直面する中で、教育は国としての生き残りのための主要な手段だったのであり、高い水準を求めた教育改革が発展を支えたのだと思いました。だからこそ、一世代で発展途上国から先進国へと飛躍したのでしょう。資源に乏しく、人材こそが国の大切な資源であると考えれば、やはり教育に力を入れるのは当然です。さらにエリートを効率的に生み出せなければ、国際社会で生き残れないという危機感が、苛烈な能力別システムをもたらしたのだろうと想像しました。シンガポールでは、小学校卒業時にPSLEという全国統一テストを行い、結果がよければ、大学進学クラス、特に優秀な一部の生徒はエリートコースへと進みます。そうでない場合は、職業訓練コースへと振り分けられます。PSLEでいい結果を出すために12歳には大きなプレッシャーがかかっています。

また、シンガポールは、公団住宅でも意図的に異なる種族同士を隣り合わせにして、互いの価値観を受け入れるような融和政策をとったと現地で教えてもらいました。その一方で、英語を公用語にしたのは、すべての種族集団に対しニュートラルで都合がよいこと、また、国際ビジネスセンターとして発展するには、欠かせないという実利的な理由があったことも歴史を知ることで理解できました。すべてが密接に結びついての教育成果だったのです。

香港は、イギリスの統治下にあったので、イギリス方式の6-5-3-2制でしたが2009年の教育改革で日本と同じ6-3-3-4制となりました。義務教育期間も日本同様です。但し、日本では公立の学校の権限は政府が持っていますが、香港では学校が大きな権限を持ちます。そのため公立といっても学校によってカリキュラムが大きく異なります。ですから小学校から行きたい学校を選びます。1980年代の香港は、大学の入学定員も少なく、エリート教育を行っていましたが、2009年の改革以降、高校までは、授業料が無償化され、エリート教育からすべての子どもへの教育へと方向転換がなされました。

韓国はグローバル化に対応するための教育改革は、1995年に発表されました。そして、小中学校では、国家カリキュラム制度が採用されています。現在の韓国は学歴社会で、短大や専門学校を含むと、98%の進学率で、ほぼ全員が高校卒業後に進学をしていることになります。義務教育は、小学校6年、中学校3年で、通う学校も日本同様、居住地によって決まります。韓国の大学入試の様子は日本のニュースでも取り上げられます。遅刻しそうな生徒がいると、白バイやパトカーが出動し受験会場まで送ってくれたり、英語のリスニング試験が行われる時間帯にはクラクション禁止、飛行機の離陸時間を調整するなど、日本では考えられないほどに至れり尽くせりです。私は、視察の度にいろいろな刺激を受けました。香港の日本人学校の図書室の充実ぶりや送迎の保護者向けの綺麗な待合室、韓国やシンガポールでは学校の正門前に並ぶ塾の送迎バス、書店の学習参考書コーナーなど教育感度の高さをひしひしと感じました。さらに、保護者にご協力いただき、10数回のグループインタビューを行いました。海外生活者としての教育観をお聞きし、グローバルな視点を持つことの重要性を痛感しましたし、教育大国の学習環境を知ることは、とても勉強になりました。PISA調査の結果や内容に関心を示さない教育関係者もいらっしゃいますが、私は PISA調査に意味がないとは思いません。2000年のPISA調査で日本は、読解、数学、科学がそれぞれ8位、1位、2位でしたが、2018年調査では、読解力15位、数学6位、科学5位でした。賛否があるとしてもPISAの結果によって教育議論が起きます。だからこそPISAの存在意義があると思います。国際比較により自国の教育方法を改善することは、グローバルな視点からも必要だと感じます。

※カナダはPISA調査で毎回、安定した高得点を収めています。